クレーム対応は,大まかに言えば,①受付,②調査と確認,③対応策の決定,④対応策の実施,といった過程で進んでいくことになります。
⑴ 受付
クレームの受付段階で重要な点は,クレームの内容を的確に把握し,顧客が感じている不満の原因をしっかりとヒアリングすることです。
もっとも,顧客の多くは感情的になっていたり,興奮していたりしますので,顧客が一方的に話す内容だけでは十分な情報が得られない場合がほとんどです。
十分なヒアリングをするためには,まずは顧客の話をよく聞くという姿勢を心がけてください。たとえ,顧客の話が長時間に及んだり,理不尽に感じたりしても,話は最後まで聞くという姿勢で臨み,決して顧客の話の腰を折るようなことはしないでください。
そして,顧客の言葉に対して,時折あいづちを打ったり,心情に共感したりする言葉を述べながら,顧客の言い分をしっかりと聞くようにしましょう。また,顧客の感じた不快さに対しては謝罪の言葉を述べることも必要です。
ここでは決して,当方の非を認めるような謝罪の仕方ではなく,あくまで顧客が感じた不快さに同調するような謝罪の仕方をすることが重要です。
このようにして,より事実関係を明確にするために必要な情報は,顧客に質問しながら,正確に把握していくようにしましょう。そして,顧客の要望を把握するとともに,顧客からヒアリングした内容を元に調査と確認を行い,期限を決めて回答を行うことになります。
⑵ 調査と確認
顧客からクレームがあった際は,しっかりとした調査を行い,正しい事実関係を把握する必要があります。
事実を正確に把握するためには,「誰が(Who)」「何を(What)」「いつ(When)」「どこで(Where)」「どうして(Why)」「どのように(How)」といった,いわゆる5W1Hの把握が不可欠となります。また,事実関係を把握するためには,しっかりとした裏付けを取る必要もあります。関係者から聞き取りをする場合には,一人の証言を鵜呑みにせずに,関係者全員にその都度,直接事情聴取をする必要があります。
聴取した内容については,日時,内容,経過などの事実関係を整理して,書類等に記録しておきましょう。
また,調査結果を顧客に報告する際には,「調査結果から判明した事実」「どうしてその方法で調査したのか」を説明するとともに,専門用語等は使わず,顧客がわかりやすいように説明することを心がけましょう。
⑶ 対応策の策定
対応策の策定に当たり注意すべき点は,法令を遵守し,社会的にも適切で正当なもので,問題の全てを解決する内容でなければならないことです。もっとも,事実無根の言いがかりや法外な要求といった悪質なクレームに対しては,決して相手の言いなりになることなく,毅然とした対応で臨む必要があります。
対応策を決定するに際しては,まず「法的な観点」からの検討が必要です。目の前にクレームを主張している相手がいても,当方に法的な責任が認められるか否かによって,その後に行うべき対応は全く異なります。まずは,「法的な責任の所在」を明らかにし,仮に当方に法的責任が認められる場合には,どの程度の責任が認められるのか「法的な責任の範囲」を検討していくことになります。
法的な責任が認められる場合の解決策としては,商品の修理,交換といった原状回復が中心となりますが,顧客の希望によっては代金の返金といった対応もあり得ます。また,賠償金などの金銭の支払いについては,損害の範囲や金銭的評価をどのように考えるか難しい場面がありますので,弁護士等といった専門家に相談されることをおすすめします。
また,法的には責任が認められないとしても,道義的にみると一定の責任を負った方が望ましい場合もあります。このような「道義的な観点」から対応を行う場合であっても,その前提として法的な責任の有無や範囲を念頭におき,それを踏まえてどこまで対応するのかを検討する必要があります。
加えて,時間・労力・費用といったコスト面を配慮したり,企業イメージの向上・維持を図るといった「戦略的な観点」から,対応策を検討するという場合もあると思います。
このような「法的な観点」「道義的な観点」「戦略的な観点」を3つの観点から,適切で正当な対応策を検討していく必要があります。
⑷ 対応策の実施
対応策が決まれば,顧客との具体的な話し合いをすることになります。誰が顧客との交渉を担当するかは,会社側の判断で決めてよいですが,交渉担当者には交渉を進めるうえで必要な権限を予め与えておく必要があります。
相手との交渉に当たっては,基本的には当初の対応方針からぶれないようにすることが肝要です。相手の要求に対して安易に譲歩したり,方針が変わったりしてはいけません。毅然とした態度で臨んだり,過去の解決事例を紹介したりすることで,相手が対応策を受け入れる場合もあります。
交渉を続けても意見の対立が大きいような場合には,担当者を変更したり,専門家に対応を一任したりすることも検討すべきでしょう。
当方に法的責任がないにもかかわらず,不当な要求を繰り返す悪質なクレーマーに対しては,逆に相手に法的責任が発生する場合もあります。また,当方の法的責任がないことを法律上確認するために,民事上の訴訟手続等を検討する場合もあります。