個人再生
個人再生とは,支払不能に陥る可能性がある債務者が,法律の定める要件を満たす金額を,原則として3年間で返済するという再生計画を裁判所に提出し,これが裁判所に認可されると,債務が減免されるという制度です。
個人再生の場合,元本カットも可能であり,住宅資金特別条項を利用すれば,住宅ローンを支払いつつ住宅を維持しながら債務整理ができるといったメリットがあります。
個人再生手続には,「小規模個人再生」と「給与所得者等再生」の2つの手続があります。
小規模個人再生の特徴
⑴ 利用できる人
1. 住宅ローンを除く債務が5000万円以下
2. 将来において継続的にまたは反復して収入を得る見込みがあること
サラリーマンだけではなく,自営業者やパート,アルバイト勤務の方も利用することができます。
⑵ 債権者の消極的同意が必要
再生計画案の認可には,再生計画案に同意しない債権者が債権者総数の半数に満たず,かつ,その債権額が債権総額の2分の1を超えないことが必要です。
⑶ 必要弁済額
再生計画案で定める弁済額は,以下の金額以上のものでなければなりません。
ア 住宅ローンなどを除く債務が3000万円以下の場合
その5分の1と100万円のいずれか多い額
その5分の1の額が300万円を超えるときは,300万円
イ 住宅ローンなどを除く債務が3000万円を超え5000万円以下の場合
その10分の1の額
以上に加え,一定の財産を保有している場合(預金,有価証券,自動車,保険等)には,仮に破産手続を取った場合にこれらの財産を処分・換価して債権者に分配される配当額以上の金額を弁済する内容の再生計画案でなければなりません。
給与所得者等再生の特徴
⑴ 利用できる人
1. 住宅ローンを除く債務が3000万円以下
2. 給与またはこれに類する定期的な収入があって,その額の変動幅が小さいこと
年間の収入の変動幅が5分の1以内であれば変動の幅は小さいと考えられています。したがって,給与所得者等再生を利用できるのは,サラリーマン,公務員,年金生活者等の安定収入が確保できる人ということになります。
個人再生のメリット
1. 住宅を維持しながら債務整理ができる
住宅資金特別条項の利用が可能である場合に,これを利用すれば,住宅を維持しながら債務整理を行うことが可能です。
自己破産の場合,原則として債務者の財産は破産手続の中で処分・換価されますから,保有する住宅も失ってしまうことになります。
これに対して,個人再生の場合,住宅資金特別条項を利用した再生計画が認可されれば,債務者は住宅を保持したまま債務整理をすることが可能です。
自己破産と比較した場合,個人再生の最大のメリットといえます。
2. 債務の大幅なカットが可能
個人再生の場合,債務の5分の1または100万円(住宅ローンを除く債務が3000万円以下の場合)に圧縮されますので,自己破産の場合ほどではないにしても,大幅な債務のカットが可能です。
もっとも,住宅資金特別条項を利用する場合は,住宅ローンについては,原則として従前どおり支払い続けることが必要です。
3. 財産の清算が不要
自己破産の場合,原則として債務者の財産は破産手続の中で処分されて金銭に換えられ,その金銭は各債権者に分配されることになります。
これに対して,個人再生の場合,債務者は現に保有する財産を清算する必要はなく,そのまま保持できますし,事業者であれば,事業を続けることができます。
4. 浪費・ギャンブルによる債務でも一部についての免除が得られる
自己破産の場合,免責不許可事由に該当するケース(浪費,ギャンブルによる債務等)では免責が認められず,債務の支払義務の免除が得られない場合もあります。
これに対し,個人再生の場合,自己破産の場合のような免責不許可事由が定められていませんので,このような債務者であっても債務の一部について免除をうけることができます。
5. 資格制限を受けない
自己破産の場合,破産手続開始決定から免責決定が確定する等の間,警備員や生命保険募集人などの一定の職業・資格などに一時的に就けなくなります。
自己破産の手続きが終われば当然に就業・資格制限はなくなりますが,このような資格制限を避けながら債務整理をしたいと考えるときは,自己破産よりも個人再生の方がメリットがあることになります。
6. 債権者全員の同意は不要
任意整理の場合は,全ての債権者から個別に同意を取り付ける必要があります。
個人再生の場合,給与所得者等再生手続では,債権者の同意は全く不要です。また,小規模個人再生手続でも,一定の債権者の消極的同意で足りますので,反対意見を持つ債権者がいたとしても,裁判所による再生計画認可決定さえ得られれば,反対する債権者に対する債務も含めて,全ての債務について,債務減免の効果を及ぼすことができます。
7. 債権者から強制執行等をされなくなる
個人再生手続が開始されますと,債権者は債務者の給料の差し押さえなどの強制執行手続を取ることができなくなります。既に強制執行をされている場合には,その手続は中止されます。
任意整理の場合にはこのような効果はありませんので,個人再生のメリットといえます。
個人再生のデメリット
1. 官報に氏名,住所が公告される
裁判所から個人再生手続開始決定あるいは再生計画認可決定が出された場合,その決定が出された旨と債務者の氏名,住所が官報に公告されます。
官報というのは,法律・政令・条約などを公布する媒体で,いわば国の広報誌ですが,あまり一般の方に認知されているものとは言い難いものがあります。そのため,官報に公告されることにより,他人に個人再生した事実を知られる可能性は低いと思われます。
2. 5~10年の間は新たな借入れが極めて困難となる
個人再生をした場合,5~10年間は信用情報機関の「事故情報」に登録されると言われています。
そのため,信用情報機関に事故情報として登録されている間は,新たにクレジットカードを作ったり,金融機関から融資を受けたりすることは,極めて難しくなります。
3. 認可を受けるためのハードルが高い
個人再生は,住宅ローンを除く債務が5000万円以下の場合しか利用ができません。
また,再生計画が認可されるためには,住宅ローンを返済しながら,なおかつ,住宅ローン以外の債務を原則として3年以内に弁済を終える必要があります。
そのため,安定した収入があり,家計的にもある程度余裕があって,圧縮後の債務を返済可能だと認められなければ,再生計画を認可してもらえないことになります。
住宅資金特別条項とは
個人にとっては住宅は生活の本拠であり,住宅ローンを抱えた債務者が経済的窮地に陥っても,住宅だけは維持したいと強く望むのが通常です。そのような債務者の声に応え,債務者を救済するための制度として設けられたのが「住宅資金特別条項」です。
この制度の仕組みは,再生計画の中で住宅ローンだけを特別扱いとする住宅資金特別条項を定め,住宅ローンについては他の債務と異なり債務の減免の対象から除外して全額支払いをするというものです。
住宅資金特別条項を利用するためには,以下の要件が必要です。
1. 債務者が個人であること(法人は利用できません)
2. 債務者が居住する建物の床面積について,2分の1以上が居住用であること(店舗兼住宅の場合には注意が必要です)
3. 生活の本拠である住宅であること(セカンドハウスや別荘等は不可)
4. 住宅購入,改良のための資金についての貸付であること
5. 住宅ローンが分割払いであること
6. 住宅に住宅ローン以外の抵当権が設定されていないこと
7. 抵当権が住宅に設定されていること(敷地のみに抵当権が設定されている場合は不可)
8. 個人再生手続開始決定前までに,住宅ローンの支払いが保証会社によって代位弁済され,その代位弁済から6か月を経過していないこと